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滑る前から勝負はついていた? 浅田真央チームの「不利な戦術」
Feb. 6, 2010
あさだまお


「不利な戦術」とは、2つのトリプルアクセルに挑戦したことではない。

ヴァンクーヴァー冬季オリンピック、女子フィギュア フリーで、浅田真央とキム・ヨナが跳んだ7つのジャンプ要素とその採点を、その難度レヴェルごとに組み合わせて並べ替え、比較してみた。



Planned Elements Executed Elements Base Value GOE Score
Kim 3Lz+3T 3Lz+3T 10.00 2.00 12.00
Asada 3A+2T 3A+2T 9.50 0.20 9.70
Kim 3Lz 3Lz 6.60x 2.00 8.60
Asada 3A 3A 8.20 0.80 9.00
Kim 2A+3T 2A+3T 7.50 2.00 9.50
Asada 3F+2Lo 3F+2Lo 7.00 0.60 7.60
Kim 2A+2T+2Lo 2A+2T+2Lo 6.30 1.40 7.70
Asada 3F+2Lo+2Lo 3F(dg)+2Lo+2Lo 5.17x -0.48 4.69
Kim 3F 3F 5.50 1.80 7.30
Asada 3Lo 3Lo 5.50x 0.60 6.10
Kim 3S 3S 4.95x 1.40 6.35
Asada 3T 1T 0.44x 0.00 0.44
Kim 2A 2A 3.85x 1.40 5.25
Asada 2A 2A 3.85x 1.00 4.85

(x:演技後半ジャンプ1割増点)


GOEの差や、ミスによる減点を全く考慮に入れず、もともと計画されたジャンプ要素だけを比較しても、真央ちゃんのジャンプは、単独アクセルジャンプ以外は、キムより低いグレードのものばかりである。

ダウングレードされた3連続コンビネーションジャンプ 5.17x が仮にダウングレードされず 9.35x、かつ、1トウループ 0.44x となってしまったジャンプが仮に予定通り3トウループ 4.40x だったとしたら、真央ちゃん基礎点合計は64.00となり、キムの60.90を上回る。しかし、実はキムもひとつミスをしている---演技後半に跳んで1割増しになるはずだった2アクセル+3トウループを跳ぶタイミングが早すぎて、増点無しの7.50となった。これを8.25に修正すれば、計画された基礎点合計の差は、わずか2.35となる。

演技構成点で真央ちゃんがキムを上回ることが難しいのは、滑る前からわかっていることだ。浅田真央チームは技術要素基礎点の段階で、キムをもっと大きく上回るプログラムを組む必要があった。「ノーミスをして(フィギュアスケート界の不思議な言葉)」、GOEを稼ぐのは、その後のことである。3連続コンビネーションジャンプを演技後半に行い、1割増しを稼ごうとしたことも、ミスを誘発する危険な戦術だったと言える。

「真央対ヨナ」はよく「ジャンプ対表現力」の勝負と言われているが、ジャンプのみの勝負を考えても、真央ちゃんのプログラムは不利なのである。3+3、2+3のコンビネーションジャンプを決めてくる相手に対して、コンビネーションの1つ目で3アクセルを決めても、2つ目が2回転であれば、3アクセルの価値は相殺される。「ルール上3アクセルの基礎点をもっと上げるべき」と本田武史は言っていたが、3アクセルの基礎点8.2は、直下の3ルッツ6.0より既に2.2高く設定されており、これ以上の「高評価」は難しいだろう。

ジャンプ以外の技術要素を比較したのが、以下の表である。



Planned Elements Executed Elements Base Value GOE Score
Kim FCoSp FCoSp4 3.00 0.80 3.80
Asada FCoSp FCoSp4 3.00 0.80 3.80
Kim SpSq SpSq4 3.40 2.00 5.40
Asada SpSq SpSq4 3.40 2.60 6.00
Kim SlSt SlSt3 3.30 1.00 4.30
Asada SlSt SlSt3 3.30 1.10 4.40
Kim FSSp FSSp4 3.00 0.60 3.60
Asada FSSp FSSp4 3.00 0.80 3.80
Kim CCoSp CCoSp4 3.50 1.00 4.50
Asada CCoSp CCoSp4 3.50 0.80 4.30

要素のレヴェル、つまり基礎点はすべて同じ。GOEはトータルで真央ちゃんが0.70上回っている。真央ちゃんはジャンプ以外の技術で、キムを上回っているのだ。

3アクセルの完成度/安定度を上げるのはもちろんのこと、それ以外に今後真央ちゃんが頑張らなければならないポイントは、以下の2つである。

・苦手な3ルッツを克服して取り入れること
・コンビネーションジャンプの2つ目以降に3回転ジャンプを跳べるようになること

その上で、浅田真央チームは、基礎点算出の時点で演技構成点の差を埋められる計算が立つ「勝てるプログラム」を組むことが必要だ。今回のプログラムは、キムがミスをすることに賭けた、「勝てないプログラム」だったのである。

真央ちゃんが「ノーミス」を目指すのは、その後のことであり、キム・ヨナとのGOEや演技構成点のあからさまな差に我々が疑問を呈するのは、さらにその後のことである。