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イングランド プレミアリーグ第9節 アーセナル対アストン・ヴィラ ~ 日本人実況解説者達の「人種差別音痴」ぶり
Oct. 16, 2004
arsenal20041016


イングランド プレミアリーグ第9節 アーセナル v. アストン・ヴィラ。キックオフ前、ハイベリー・スタジアムのノース・バンクを埋め尽くしたアーセナルサポーター達は、次のようなメッセージを手に手に掲げた(写真)。

ARSENAL AGAINST RACISM

「アーセナルは人種差別に反対する」。この様子は、現地テレビの国際ライヴ映像上、約1分半に渡って中継された。さて、この映像のバックで語られた日本人実況解説者のコメントを、以下にご紹介しよう。

(前半45秒間は、解説者による「今シーズンのアーセナルの展望」がだらだらと引っ張られる。しかも内容の独自性・情報性は全く無し)

実況アナ「アーセナルとアストン・ヴィラでありますが、ご覧のようなハイベリーの、このムードであります。現地時間の午後3時キックオフ予定…」

解説者「…ここでビラが掲げられているのは、『アーセナル・アゲンスト・ラシズム (※原音声ママ)』、人種差別にアーセナルは、敢然と反対します、と。まぁこれはアーセナルでなくとも、全人類同じことなんですけどもね。えーこれはフランス代表の試合に絡んで、アンリやヴィエラに対する、相手チームサポーターからの人種差別的な発言、ヤジがあったということにね、直接抗議しておりますね。」

アナ「なかなかそのー、ヴィエラやアンリに対するそのー、『ことば』というのは、なかなか絶えないですね。」

解説「まぁイングランド代表にもね、キャンベル以下、黒人選手がいて、同じようなことが国際試合の度に起こってしまいますね。もちろん皆さん個人的にはもうお解りなんでしょうけれども、いわゆる、熱くなってしまってね、つい、そういうことばが口を突いてしまうという…ま、これはもうほんとに一刻も早く、完全に無くなって欲しいですね。」

違いますよね?解説の東本貢司さん。これは、スペイン代表監督のルイス・アラゴネス Luis Aragonés が、今月6日、代表チームの練習中、レジェスに向かって、「お前はあの黒い糞よりもずっと凄いプレイヤーなんだぞ!」と言ったことに対して「直接抗議」したものですよね?

もちろんファンのヤジにはもっと酷いものがあるし、それも問題だが、それは今に始まったことではない。今回アーセナルサポーターが抗議しているのは、民度の低い名も無きサポーターではなく、一国を代表するチームの監督が; フットボールという文化を向上させも堕落させもし得る立場にある者が、人種差別的発言をしたという事実に対して、である。もし、この解説者がこの事実を知らなかったとすれば、それは余りにも無知であり、怠慢である。もし、この解説者がこの事実を知っていて、敢えて特定の個人から鉾先を逸らしたとすれば、それは余りにも国際的問題意識音痴である。臭い物に蓋をすることが公共性であると勘違いしている。それから、「ラシズム」って何?「わしズム」ってのは聞いたことあるが。この人間のこの問題に対する意識の程度が知れるというもの。いずれにしても、電波に声を乗せて海外サッカーを語る資格はゼロ。お前のような「解説者」こそ、「一刻も早く、完全に無くなって欲しいですね」。

このような者に調子を合わせている実況アナも実況アナである。このアナウンサーは私の大切な友人の知り合いということなので、友人に免じて実名を揚げることだけは控えるが、「アラゴネス監督にも最近そういった発言がありましたね」ぐらいのことは言えたはずだ。問題の本質を逸らし、ぼかして伝えることは、事実を捏造することと等しく悪質である、ということを解らない伝え手は、伝え手として三流である。このような実況アナウンサーも、「一刻も早く、完全に無くなって欲しい」。

ちなみに、副音声、現地実況の英国人アナウンサーは、このキャンペーンがアラゴネスの差別的発言に対するものであることを、はっきりと伝えていた。この現地情報をリアルタイムに実況アナウンサーに提供出来ない番組スタッフも、三流である。それ以前に、この試合でアーセナルサポーターがこのメッセージを掲げることを事前に予測出来ず、適切なコメント案を用意出来なかったスタッフ/実況解説者は、三流である。こんなスタッフ/実況解説者を使い続けている放送事業者は、三流である。こういった三流放送人達は、一刻も早く、完全に無くなって欲しい。

これがもし地上波総合チャンネルの中継であれば、その視聴者の多くは海外サッカーの「現実」を知らぬ者達であり、多々ある問題のひとつだけをことさらに取り上げて伝えることは、バランスを欠く可能性がある。「スペインの監督だけが悪者だ」と伝わる可能性がある。限られた時間の中で情報のバランスを保つことは難しい。だから、この件に全く触れない という選択肢はあり得る。しかし、この実況解説はスポーツ専門チャンネルで為されているのだ。その視聴者に、情報のバランスを自ら保つ能力があるという前提で放送し得る、というのが、専門チャンネルの「専門性」ではないのか?そうでなければ、専門チャンネルの存在価値など無い。

アラゴネスは「あの発言は、練習中に選手を鼓舞するために放ったもので、差別的意図は無い。フットボールの現場では、くだけたことばを使うものだ」などと弁解しているようだが、アラゴネスは次のふたつの点で間違っている。第一に、差別意識というものは、「くだけたことば」の中に現れるものだ。第二に、「あの黒い糞よりも凄い」などということばで「鼓舞」されるようなプレイヤーがいるとすれば、そのプレイヤーは決して、ティエリー・アンリーというプレイヤーを超えることは無い。

ルイス・アラゴネスのような監督が練習中に発する差別的発言や、シニーサ・ミハイロヴィチのような選手が試合中に発する差別的な挑発が無くならない限り、サポーターのレイシズム は、無くならない。海外で報じられるこれらのフットボール当事者の差別的発言が日本でもあからさまに報じられない限り、日本人の人種的問題意識も啓発されない。

以下に、もうひとりのアルジェリア生まれのフランス人によることばを引いておこう。

「道徳や義務といったものの全てを、私はフットボールから学んだ。」
“All that I know most surely about morality and obligations I owe to football.”

--- アルベール・カミュ Albert Camus